



Natsumezaka Residence
本計画は、文豪・夏目漱石ゆかりの地として知られる夏目坂通りに面する敷地において、周囲に寺院が多く集積する地域特性と、敷地に課される用途地域による規制を、単なる制約としてではなく、生活の質を導くための構造的・空間的資源として再解釈することから設計をスタートしている。
夏目坂周辺は、江戸期より寺院と武家地が混在する寺町として形成され、遊興の場ではなく、日常を支える簡素で持続的な文化が育まれてきた地域である。寺院や墓地、境内がつくり出す外部環境は、公園のように開放的でも私庭のように閉鎖的でもない静かな半公共性を帯びており、時間の流れが緩やかで、日常行為が穏やかに積み重なる特性を持っている。
本敷地は二つの用途が共存する用途境に位置し、西側からは高度斜線および日影規制の影響を受ける。そのため建築形態は寺院側から段々と後退していく構成を余儀なくされるが、本計画ではこの断面構成を生活の場を豊かにしていくための契機として捉えている。後退によって生まれる屋根面には菜園テラスを設け、寺院の静かな外部と適切な距離を保ちながら、光や風、季節の変化を受け止める中間領域としている。こうした与条件を各階で更新することで、地下1階・地上7階建て、全16戸のうち12戸が異なる間取りとなり、画一的ではない多様な暮らし方や価値観を受け止める集合住宅へと変化していく構成としている。
構造種別にはRC造ラーメン構造を採用したが、細かな後退を伴う形態条件に対して一般的なロングスパン架構をそのまま適用するのではなく、短スパンで整形したモジュールとして構成している。短スパン化により全ての柱を通し柱とすることが可能となり、後退によって生じがちな特定部位への負荷集中を避け、架構全体で荷重を素直に流す計画としている。その結果、柱梁の部材断面を最小限に抑えつつ、柱型・梁型による室内の圧迫感を軽減し、複雑な形態条件下でも室内の快適性と計画の自由度を確保している。
また、部材断面を抑える上で課題となる柱梁端部の定着や施工性については、日本の寺院建築に見られる貫工法の「力を通して流す」という思想を参照し、片持ち梁を追加する事で配筋の交通整理を行っている。これにより柱梁接合部の鉄筋混雑を抑制し、コンクリート打設時の品質確保にも配慮した、寺院建築の合理性を現代RC構造へ翻訳した構造計画としている。
住戸内では、菜園付きテーブルに連続する形で窓際にキッチンを配置し、調理・配膳・食事といった「食」に関わる行為が、室内と外部を横断して連続する空間構成となることで、住戸の中心的な居場所となる。従来のnLDKの定型にとらわれず、映像視聴など内向化しがちなリビングに対し、ダイニング・キッチンを外部との主たる接点とすることで、外部の気配や時間の変化を身体的に受け取る住空間を目指している。
地下階では、ドライエリアを単なる採光・換気のための付帯空間ではなく、地階住戸にとっての主要な外部空間として捉え、苔や石、植栽を用いた日本庭園のような設えとしている。柔らかな光や湿度、音の減衰といった地下特有の環境条件を活かし、鑑賞の対象ではなく、食の行為を包み込む背景として機能する外部空間を形成している。
最上階には、本建物の思想を集約する住戸としてトリプレット構造の住居を一戸配置し、サウナを組み込むことで、日常・休息・回復という異なる時間の層を縦に重ねた住まいを提案している。サウナは娯楽的な設備ではなく、都市生活の緊張を解きほぐし、身体感覚を取り戻すための回復装置として位置づけている。
内部の色彩計画では、日本の伝統色を基調とし、夏目漱石の文学的世界観に通じる、自然や時間、心理の変化を静かに映し出す色彩とすることで、住まいに奥ゆかしさと落ち着きをもたらし、長く住み続ける中で空間が成熟していくことを目指している。さらに1階エントランスでは、敷地内工事で発生した残土を産土として左官材に再利用し、この土地に根付いた建築であることを身体的に感じられる空間としている。
本計画が目指すのは、非日常として切り離されたリトリートではなく、日常の中に静かに組み込まれた都市型リトリートである。形態条件や構造条件から生まれた空間を、食という最も基本的な生活行為と結びつけることで、夏目坂という土地にふさわしい、静かで持続的な住空間を実現している。
Data : Scheduled for 2025
Location : Waseda,Tokyo
Category : Residence
Site area : 316.10㎡
Total area :862.66㎡
Construction type : New construction
Design cooperation : TOHYAMA ARCHITECTS
Photographer : Nao Takahashi
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